鼠径ヘルニアとは
鼠径ヘルニアは「脱腸」とも言われ、本来はお腹の中にある小腸などの内臓が、足の付け根あたりにある鼠径部の腹壁の薄くなっているところから飛び出た状態の事をいいます。
加齢にともなって筋膜や筋肉が弱くなると、鼠径管(男性では睾丸とつながる血管や精管を、また、女性では子宮を支えるじん帯を保護しています。)や周辺の筋肉層にすき間ができてきます。そんな状態のときにおなかに力が入ると、広がったすき間から小腸などの内臓の一部がこぼれ出て、鼠径ヘルニアを起こすのです。
鼠径ヘルニアは男性に多い疾患です。
症状
最初の症状としては、立ち上がったりなど、お腹に力を入れた時に足の付け根あたり(鼠径部)にピンポン球ぐらいの大きさの膨らみが認められ、指で押したり、横になったりすると多くは引っ込みます。
そして同じ症状が続くうちに、膨らみも大きくなっていき、内臓が引っ張られる事により痛みを伴う時があります。
放置を続けると、「嵌頓(かんとん)」状態になる事があり、出てきている腸が締め付けられて元に戻らない状態で、内臓が詰まる腸閉塞の症状や、飛び出た内臓に血液が届かず壊死や腹膜炎を引き起こして緊急手術を要する場合もあります。
治療法
鼠径ヘルニアは薬で治すことは出来ず、治す為には手術が必要な病気です。
ヘルニアの手術は、大きく腹腔鏡を用いる手術と鼠径部切開法(腹腔鏡を用いない、従来からの手術)があります。
- 腹腔鏡下手術
- お腹に小さい穴(5mm~10mm)を3か所開け、お腹の中を二酸化炭素で膨らまします。その後、カメラをお腹の中に挿入し映し出された映像を観ながら、腸が飛び出すヘルニアの出入口を、メッシュといわれる人工補強材でヘルニアの出入口や組織の弱くなった部位を閉鎖、補強します。
腹腔鏡手術の長所
- 小さい穴を数か所開けるだけで済み、傷跡が目立ちにくい。
- 入院期間が短い。
- 傷が小さい為、手術後の痛みも軽減される。
- お腹の中からヘルニアの種類、大きさ、部位を正確に診断できる。
- ヘルニアの出入口を、直接見ながら手術が出来る。
- 鼠径部を切開しないので、低侵襲の手術を行える。
- ヘルニアの発生部位が複数個所あっても、同時に治療する事が出来る。(手術時間は長くなります。)
- TAPP法(腹膜腔アプローチによる腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術)
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- 全身麻酔を行い、臍部、右側腹部、左側腹部に小さな切開を行います。
- 臍部からトロッカーといわれる筒状の器具を装着し、腹腔鏡を入れた後でも視野を大きく見られるように、二酸化炭素を注入しお腹を膨らませます。
- 腹腔鏡を臍部から挿入します。
- その他の切開部から、腹腔鏡用の剪刀や鉗子を用い、腹腔内から腹膜の切離、剥離を行います。
- 腹膜を十分に剥離し、メッシュを設置できる空間を作ります。
- メッシュをタッカーと呼ばれる吸収性の鋲で腹壁に固定します。
- 切離、剥離した腹膜は医療用縫合糸で縫合し、手術終了となります。
- 鼠径部切開法
- 直接、鼠径部を切開する方法です。ヘルニアの大きさによりますが、鼠径部のヘルニアで腫れている部位の少し上を斜めに4cmほど切開して行います。
お腹にヘルニアを押し戻し、ヘルニアの原因となっている穴の部分を防ぎ、メッシュで補強します。
アプローチとして、前方から筋膜を補強する術式と後方(腹膜側)から補強する術式があります。
- メッシュプラグ法…前方からの代表的な術式
- 人工補強材で作られ、傘状をしたプラグで脱腸を押し戻し、そのまま蓋をする様に押し入れ、さらにメッシュ状のシートを筋膜の弱い部分にあてがい補強する方法です。
手術は局部麻酔で行われ、比較的短時間で行われます。
- クーゲルパッチ法…後方からの代表的な術式
- クーゲルパッチといわれる、2重の人工補強材に楕円形の形状記憶リングが装着されたメッシュで、筋膜の内側から広範囲に塞ぎます。メッシュが腹壁を支えている為、異物感が少ないといった利点があります。
茨木市にある谷川記念病院では、腹腔鏡下手術にて鼠径ヘルニアを治療するケースが多いですが、患者様の希望や身体の状態など総合的な判断のもと、患者様に最も適した手術方法を選択し、行っております。